【Vol.02】 指宿徹 氏 (ハム&ソーセージ工房 IBUSUKI)
今回は佐賀県三瀬村の名店「ハム&ソーセージ工房 IBUSUKI」のオーナーである指宿徹さんにインタビューをさせて頂きました。工房の生い立ちや裏話、そして、こだわりが詰まった指宿さんのソーセージ愛と、その生き様。一流の味を確立させた貴重なストーリーをご紹介させて頂きます。
聞き手:赤星拓
赤星拓(以下 赤星)
今日はよろしくお願いいたします
指宿徹(以下 指宿 ※敬称略)
はい、お願いします
赤星
今回のインタビューでは、指宿さんがハム&ソーセージ工房IBUSUKIを始められたきっかけや、商売をするにあたって大切にされていること、想いやこだわりなどをお話頂きたいなと思っています。また、2021年9月からJ1サガン鳥栖のオフィシャルスポンサーになられたり、令和3年佐賀県豪雨災害支援として被災地にて炊き出しを実施されるなど、積極的に地域貢献もされてますよね。
まずは、指宿さんがハム&ソーセージ工房IBUSUKIを始められた経緯をお聞かせ願えますでしょうか?
指宿
私はね、福岡のとある大学に。鹿児島は奄美大島の出身なんだけど。その大学のなかで「自分はお勉強よりも実際まちなかに出て働くのが合ってる」と思ったので、食品会社に就職して。ホテルやレストラン、和食のお店にお肉をおさめる営業をしていました。
その時に色んなお肉の部位とか、輸入元。またコックさんたちと話すにあたって、捌き方や調理の仕方を自分なりにずっと教わって。それが良い勉強になって。
で、そこに5年程いたのかな?ある成績をおさめたものですから「指宿、お前は肉の販売を頑張っているからドイツに研修旅行に行っておいで」と社長にいわれて。行かせて頂いたのが最初。
指宿
それからドイツのサッカースタジアムであったり。駅で食べたソーセージの味。これが当時、日本のソーセージと言えば“お子様の食べ物”というイメージだったのが、向こうの人は大人が。香草の香りがすごく効いた、ジュージューと焼いたものを食べている。
これを日本や福岡、例えば中洲でも屋台を敷いてソーセージを売れば「これはまだ日本人は知らんぞぉ」と。
日本にも大きなメーカーやブランドはあったけれど、ドイツのイメージとは全然違ったもんで、味もみんな甘くて日本人向けに作っているし、本場とはこうも違うもんやねと思って。
ドイツに初めて行った時に『イーファー』っていうフランクフルトの見本市があって、そこに小島豊さんという唯一の日本人バイヤーさんがいたんですね。
その人はヘラスパイスというドイツのスパイス会社のアジア向け担当・日本向け担当の先生なんだけど、その人とお会いして「あぁ日本の方ですね、僕はドイツが全然わかんなくて」というと色々親切にドイツを案内してくれたんです。この経験と出会いが決め手となって。僕は帰国した途端にお世話になっていた社長のところに行って「申し訳ないけど自分の道が見つかった」と。
赤星
研修旅行から卒業旅行になるなんて。笑
指宿
社長に「自分のソーセージを作らせてくれ」と。ドイツまで行かせてもらったのに本当にわがままだと思うし「すいませんけど、、」って言ったら愕然としてたねぇ。
「あと1、2年やって、その想いを会社の後輩とかに伝えて。そしたら辞めていいよ」ってことだったので、1年何ヶ月かやって。同じ頃、福岡でソーセージを学ぶ所があるか探していたら、警固に『ゲーテハウス』というソーセージ屋さんがたまたまあった。
福岡にはそこしか無くて、糸島とかにもちょこちょこあったけど。そういったところは養豚やってた方がどうしようもなくなってソーセージなどの加工品を作るようになったパターンが多かったもので。
僕が思うソーセージってのはカフェのような綺麗な店で、ショーケースには色とりどりのハムが並ぶっていうイメージしかなかったもので。
そこ(ゲーテハウス)に行って教えてくれって話をしたら『ゲーテハウスには月に一度東京から先生が来てるよ』って。その方が偶然にも小島豊さんだったんですよ。
指宿
僕は当時お金も全く持っていなかったから「ごめんですねぇ、それでもソーセージ屋をやりたい」って小島豊さんに言ったら応援すると言われて、今僕が60歳過ぎだからもう先生は70歳過ぎかな。
福重に食品工場の一角を借りて、ソーセージのテストキッチンみたいな、でも販売もするみたいなところを作って。
そこの工場で、いきなりドイツ製のスモークハウスとかは買えないんで、その先生に来てもらって石釜を組みたてて。室内だけれども、大工さんも一緒に耐火煉瓦や色んなものを塗って石釜を作った。
ボイルするときには、給食のボイル槽みたいなものを使って、スモークは全て石釜。ほんと原始的なパターンでどうにか3、4年間やったのかな福重で。
大丸で販売させてもらったりもして少しずつ知られてきて。でもやっぱり目標はこういう店(現在のハム&ソーセージ工房IBUSUKIのようなお店)を作りたいんですよ。
でも日本の大工さんに聞いたら「できるわけないやない!何億円かかると思っとると」って言われたんですが、寺塚四角に『SAILER(サイラー)』っていうパン屋さんがあって。そこは正確に言うとオーストリアですけどドイツの大工さんを呼んで店を作ってたんです。
なので「できるやん!」と思って。
ラジオでそれを知ったんだけど。その足ですぐにサイラーというパン屋さんの裏に行ったらサイラーさん本人に「僕あなたの事知ってますよ、いつもお店に行ってますよ」って言われて。
バイクで来る大柄な外国人がおるとは聞いてたけど、それがサイラーさん本人だった。僕は店頭には出ずにいつも工房にいて。作るだけだったから知らなくて。
そして初めて会った翌月、サイラーさんから「一緒にドイツ行くぞ」と誘ってもらって。一緒にドイツに行って「こういう店作りたい、ああいう店作りたい」ってあちこち回って。
彼のお店を作ったオーストリアの若い方(親子でやってる大工さん)、その方たちがコンテナ船に材料など全部乗せて日本に来てくれて、到着の時にも他のオーストリアの大工さんたちが3人くらい来てくれて。それからこの店が建って、25年は過ぎてるけど全然色あせず素晴らしいし、しかも超安くしてくれて。
もちろん彼らは利益なしだけど「日本が好きだから」とやってくれて。でもそれから何十人ってこの店を見て、100人近く彼がその人たちのお店を作ってあげてたんで、元は取れてると思うけど(笑)
そういった人たちにお世話になって。
サイラーさんの「一緒にドイツ行くぞ」って一言があったから、今の僕がある。あの器の大きさにはほんとに感謝してますよ。だからお互い還暦だけど、いまだにに労わり合ってるよ。
店知ってる?サイラー。
赤星
私、今近所に住んでて。住宅地の中にあるから、昼間は奥様方がいっぱいいまして、アンティークな雰囲気で、可愛らしいお菓子とかを出してらっしゃいますよね!
指宿さんとは、私がサッカー選手になってサガン鳥栖に入団したルーキーの時から色々家族ぐるみでお世話になって。
指宿
赤星さんがルーキーで入って来て、サガン鳥栖好きだから、やっぱり入って来る子がいたら嬉しいわけですよね。頑張ってるし、ライバルのアビスパ福岡さんをその時アウェイ博多の森でクラブ史上初めて倒したし、すごくいい思い出があって。その年の暮の反省会みたいなのに参加して、サガン鳥栖のその頃良くして頂いてた牛島社長に挨拶したり、赤星くんにMVPのケーキを渡したり。それが出会いやね。
赤星
そうですねぇ、ルーキーなのにケーキをもらってしまって、先輩方に相当言われましたけど(笑)
指宿
一番手前にいた人たちが「なんが赤星かぁ」って(笑)
赤星
それからずっと良くして頂いてますよね。そしてまたご縁があってサガン鳥栖の営業的なところのお手伝いが出来たらと会社を自分もやってまして、私を育ててもらったサガン鳥栖の何か少しでもお役に立てるような事があればと思ってます。
指宿
すごい嬉しかったよ。親しくしてもらって、よくお店に来てくれてたヨシキ(高橋義希選手)とか赤星さんとかそういう人たちはやはり特別な存在だから。そういう人が会社を立ち上げて。ずっと応援はしてたんだけど、お店として表面的には10年くらい鳥栖から離れてたけど、間に赤星さんが入ってくれて、今や微々たるスポンサーをやらせてもらうようになったのは本当に赤星さんのおかげだと思ってる。
赤星
今日(土曜日)もお昼前からお客さんがたくさんですね!
指宿
鳥栖のスポンサーになって、みなさんがツイッターなんかで「ありがとう、ありがとう」と言ってくれるんだけど、そういうのも加味してるよね。
僕は今裏で作るだけの人になって、去年くらいまでは焼いたりもしてたんだけど、今は若い男の子に任せて、極力半日は休まないと(昨日も病院で良くないと言われショックを受けた)。
だからほんとサガン鳥栖のスポンサーは僕の目が黒いうちは継続してやりたいって思ってる。
赤星
その拘りがあるソーセージがあって、歴史がある。地域の皆さんが愛する地域スポーツクラブを支援することでもっともっとソーセージの魅力・お店の魅力・人の魅力に、スポーツで繋がっていく。スポーツの力と言いますか、人を集める価値が指宿さんの魅力を更に引き立てていってるのかなと、見てて素晴らしいと思いますし、ずっと続いていって欲しいなと思います。
私たちとしては一緒にお仕事をさせて頂いてとても有り難いなと思います。
最後に質問なんですが、イブスキさんは地域に愛されているお店だと思うんですけれども、ビジネスをする上で一番これだけは!というものがあれば是非お願いします。
指宿
ほんとに一言で言ったら『お客さんからの信頼』よね。僕に対する信頼。ソーセージなんて詰め物だから何入れても分からないものだし、市販されてるひどいものはひどいものを入れて、味も甘く、安くしてるところばっかりよ。
そうじゃなくて「あ、このお店ならば絶対こういうことしないな」っていう、そういう信頼。過去失敗した事も多々あったけど。30年くらいやってきて、信頼を得ていると思う。
僕が今誇れるのは、そういう気持ちでお客さんが今見てくれてるということ。
現状も、お客さんが「仕入品にしても指宿が言うんだから間違いないよ」って言ってくれるような状況になっていくような感じ。そういう風になれば、後を継ぐ人たちもすごくやり易いだろうし。
あまりにも自分の個性が強すぎて、これを他の人ができるかなという心配はあるけども(笑)
指宿
自分が生を受けて25歳の時にドイツを旅して。チャリンコ乗って半年間一人旅したこともあったよ。
『ドイツ全国のソーセージ全部食べないといけない』『ドイツ料理やフランス料理などの経験はないけれど、自分の舌が知ってる』これしかないと思ったから。安いチャリンコで全国回ったよ。お金もないしソーセージしか食べなかったから、行くときは体重が80kgあったけど、帰りは40kgになってた。学歴や仕事歴、いろんな西洋料理の勉強を本格的にしていない分、自分は現場で学ぶ、これが自分の力になると思ったから。
20代の時って、これはダメこれは正しいというアンテナを磨くことが術だと思ったから。
細かいこと言えばソーセージとかジャーキーとかまさに古風的な作り方よ。今はみんな機械化されて手で作っていないから「なんだこの作り方は!」ってドイツ人が来てみんなびっくりする。
朝から晩まで裏の職人たちも大変だけど、お客さんにアピールする部分はこういう部分しかないから、30年経ってもみんな辞めず、ほとんど20年選手。主婦の女性だけどね。入ってきたばっかりの若い人もいるけど。そんな人も3、4年経って、衛生管理者の資格も自分で取って、お店を開けるくらいまできてるから素晴らしいよね。
あと望むことは、あんまり望む事じゃないかもしれないけど、僕は24時間ソーセージのことを考えてるんだよ。家に帰ったらYoutubeでドイツの屋台とかソーセージの作り方とか検索して。それしか趣味がないわけ(笑)
もちろんサッカーや野球やニュースは見るけど。夜中でもみんなに一斉送信で「これおもしろい」って送ってる(笑)
赤星
ほんとにソーセージが仕事であり趣味であり生きがいでもあるんですね。
指宿
適当な表現か分からないけど、僕個人はサラリーマンになったらおしまいだとだと思ってるから。ゲーテハウスにいた時もイムズができて、岩田屋さんのコーナーでゲーテハウスの売り場をもらった。その時はゲーテハウスの店長だったから、2、3日徹夜でパック詰めを一人でしてたんよ。「また朝だ」という感覚が楽しかった。残業することはなんともなかった、お金なんかいらんって思ってた。させてもらえることがすごく嬉しい若い頃だった。
全てが全てうまくいかない。失敗も多かった。
赤星
やっぱりお客様に対しては信頼、心をこめてというところが大切なんですね。
お店とお仕事に人生のほとんど全ての時間をかけていらっしゃる。そういう想いが味やお客様に伝わっているんですね。ビジネスでもスポーツでも、生きていく中で一番大事な『人の信頼』というのは自分自身を裏切らないということに繋がるのかな、とお話を聞いて思いました。
指宿
人に無理強いはできないけどね、自分が変人であるから(笑)
赤星
これからも最高に素敵な変人で在り続けて頂いて欲しいです(笑)美味しいソーセージを頂きに、またお店に遊びに行きたいと思います。
今日はありがとうございました。
特別に工房を見学させて頂きました!
今回のインタビューでは当社SSBが代理店契約をさせて頂いておりますJリーグクラブサガン鳥栖との最初のクライアント様であるハム&ソーセージ工房IBUSUKI様をご紹介させて頂いております。 今回の記事を読んで下さった皆様に、地元プロスポーツチームをスポンサードされている指宿さんが、どんな想いでご自身の商売を始められ、どんな思いで毎日の仕事と向き合っていらっしゃるのか。 その想いを知って頂きたかったのです。そして、少しでも多くの方々にその想いを知って頂く事で、指宿さんが実践されてるスポーツを通じた地域貢献、事業と地域とスポーツが相乗効果をもたらすスポーツビジネスが今後も更に広がっていってくれたらと、そう願っています。最後までお読み下さりありがとうございました。 |
ハム&ソーセージ工房 イブスキ
〒842-0302 佐賀県佐賀市三瀬村藤原3796-3
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公式HP http://hamsausage-ibusuki.com/
twitter https://twitter.com/tonkuamami
株式会社SSB 代表取締役 赤星拓
1984年生まれ、福岡出身の元プロサッカー選手。ポジションはGK。福岡大学卒業後、2007年当時J2サガン鳥栖に加入し2011年にJ1へ昇格。2018年シーズン限りで現役を引退。現役引退後、ベストアメニティホールディングスに在籍し、レジャー事業を担当。2021年5月に株式会社SSBを設立し、佐賀県のスポーツ振興支援全般、また、全国のプロから民間クラブまで広くスポーツマーケティングのサポート事業を展開し、スポーツを通じた地域貢献の活動に取り組む。
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公式HP https://ssbiz.jp/
Instagram https://www.instagram.com/akahoshi.taku_1/
【撮影場所】ハム&ソーセージ工房 イブスキ
〒842-0302 佐賀県佐賀市三瀬村藤原3796-3
企画製作:リタジャパン株式会社